七月七日。
 霧野美咲は、静かに目覚めた。





















七夕






















 少しぼうっとした頭が回転を上げ始めたのは、目を開けてから数分後だった。シーツで胸元を隠しながら起き上がる。隣には、静かな寝息を立てている人間がいた。
 彼の名前は相沢祐一。美咲の恋人である。
 美咲は髪を掻き揚げながら時計に目を移した。時刻は九時丁度.。休日の起床時間よりも一時間程早い。しかし、眠気はないので美咲は起きる事にした。
 シーツから露になるのは一糸纏わぬ姿。白絹の素肌を晒しながら美咲は辺りに散らばった服を着込む。とは言っても、Tシャツとスパッツを履いただけだが。
 美咲はくしゃくしゃになった下着を手に持って部屋を出ていった。










「あ、おはよう姉さん」
「おはよう」
 一階に降りて来て最初に会ったのは沙也香だった。
「姉さん。結局泊まったんだ」
「ん。あの二人は帰って来る方が稀だから」
 共働きの美咲の両親は仕事でいなくなる事が多かった。美咲にはいつも負担をかけている事が心苦しいといつも洩らすのだが、美咲自身は勝手気ままなこの生活も大いに気に入っている。勿論両親がいるに超した事はないのだが、寂しいと思う事は少なかった。
「あの四人は仕事好きだからね」
 そう沙也香は苦笑で答えた。
「あ、朝御飯食べる?」
「ええ、もちろん」
「解った。ちょっと待ってて」
 ぱたぱたと台所へ行った沙也香を見送って、美咲は未だ手に持っていた下着を洗濯篭の中に放り込んだ。










 美咲は新聞に目を通していると、リビングに人の気配が入って来た。
 見上げるとそこには目を擦って眠た気な顔をしている綾霞がいた。水色のワンピースとかなりラフな格好をしている。
「おはようです、お姉ちゃん」
「おはよう。眠そうね」
「うん。昨日はしっかり寝たんだけどね」
 顔洗って来ると綾霞は洗面台に行ってしまった。
 美咲は再び新聞に目を通し始めたが、やがてそれも終わる。そもそも読む物も少ないのだ。芸能記事、スポーツ記事は読まない。政治経済くらいに目を通すだけだ。
 芸能・スポーツなどテレビをつければ嫌と言う程リプレイを見させてくれるので、美咲はそちらを重宝している。無用になった新聞を四つ折りにして美咲は朝食ができるまでテレビを見る事にした。










「姉さーん。できたよー」
「了解」
 台所から聞こえて来た沙也香の声に答えて、美咲はリモコンのスイッチを押す。伸びをして美咲は食卓へと向かった。
 テーブルの上には和の世界が広がっていた。
 御飯と味噌汁と焼き魚。それに卵焼きだ。
 美咲は席に着き、沙也香と綾霞も席に着く。
 そこで、沙也香がふと気付いた。
「そう言えば、兄貴は?」
「寝てるわ」
「起こす?」
「寝かしておきなさい。どうせ起こしても起きはしないわ」
「それもそうか」
 薄情な事だが、休みの日くらいだらだらしても許されるだろう。そう言う所は皆解っているので何も言わない。
 三人は手を合わせて、
「いただきます」
 と言った。
 各自、食事に手を付けて半分程食べ終わった時に、寝癖を立てた祐一が入って来た。
 彼がこの時間に起きる事は珍しい。普段なら昼頃まで惰眠を貪るのが常なのだが。綾霞がそれを尋ねる。
「お兄ちゃん。今日は早いね」
「ああ。眠いんだが寝られないんだ」
 大きな欠伸をして、眠そうに目が垂れている。見ているだけで眠気が襲って来そうだった。
「兄貴。顔洗って来なよ。少しは目ぇ覚めるよ?」
「……そうする」
 踵を返して部屋から出て行ってしまった。何の為にここに来たのだろうか?
「寝ぼけてるのかな……?」
「んー、違うんじゃない? 姉さんの顔が見たかったんだよ」
「ああ。なるほどね」
 納得顔で美咲の方を見た。二人の視線に気付いた美咲だが何も喋らなかった。










 顔を洗って幾分かスッキリした表情になった祐一は遅い朝食を食べてリビングでだれていた。
 初めこそ本を読んでいたのだが、面倒臭くなったのか本を側において天井を見上げていた。部屋には誰もいない。
 台所から食器を洗う音が聞こえて来る。丁寧な洗い方だった。カチャカチャと音を立てないように洗っている。この洗い方は綾霞か美咲のどちらかだ。綾霞は洗濯物を干すと言って庭に出ているから、美咲と言う事になる。沙也香はもう少し騒がしい。いや、元気に洗う。
「なんだそりゃ」
 良く解らない思考になった。まあ、良いか。このままぼうっとするのは気持ち良い。
 何も考えず、祐一は何時しか微睡みの中へと落ちていった。










 洗い物を済ませた美咲はさてと頭を傾げる。
「する事がないわ」
 由々しき自体だ。
 休日は身体を休めるや心をリフレッシュするのが目的のはず。しかし、心身共に昨日の夜にリフレッシュしてしまった美咲は何もする事が無くなってしまった。
 体力は反比例して回復していないが。
 ともかく。
 この家の家事はあの三兄妹の仕事なので、自分の出る幕はない。この家の事は知り尽くしているが必要以上にお節介を焼くのも無意味だ。必要以上に介入して能力取得の弊害になってしまっては彼女達の成長の妨げになる。だらだらしている駄目兄貴には自分がいるから良いので除外しておいた。
「そう言えば、家の方も掃除をしないと」
 一人で住むにはやや大きい自分の家。相沢家の隣に位置している自分の家だがここの所ろくすっぽ帰っていない。そろそろ掃除をしなければまずいだろう。それに、着替えの件もある。美咲は、自分の家の掃除をする事にした。










 そろそろ気温が高くなって来たこの時期。まだ肌寒い日もあるが概ね夏に向けて準備を進めている、そんな日だった。
 やや雲が多いが洗濯物を干すのには支障無し。綾霞は洗濯物を干し終えて、よしと拳を軽く握った。
 子供達だけで生活するので洗濯物を平日に干すと言う事は出来ない。こうして、週に一度休日を利用して一気にやってしまうのだ。量は多いがそれだけにやりがいがある。
 綾霞は空になった洗濯篭を持ってまだ干していない衣類を詰め込んで二階のベランダへ向かった。
「……毎回思うんだけど、重いんだよねぇ」
 洗濯篭に詰まった、水気を吸った衣類と言う物はかなり重い。小柄な綾霞の体躯ではやや厳しいものがある。それでも賢明に階段を登りきり漸くベランダに到着。その頃には綾霞の息は切れ切れになっていたが。
「さや姉は楽々と持っていくんだろうなぁ。お兄ちゃんは言わずもなが。お姉ちゃんに至っては庭から二階に上がりそうだよ」
 自分の体力の無さに嘆く綾霞。しかし、この場合比較する対象が間違っている。
 沙也香は活発な印象通り体力も並の男子学生よりある。水泳部ではそこそこの実力をマークしている。運動部ではない綾霞では比べる方がおかしいのである。
 祐一に至っては異性なのだから比べる意味がない。あの歳で洗濯篭の一つや二つ運べない方が逆に問題だ。
 そして、美咲に至っては外国産格闘家でさえも片手で捩じ伏せる事ができる(と綾霞は思っている)。あの細身からは想像出来ない程、力があるのだ。これは霧幻流の理(ことわり)に乗っ取って気を同調させ物質と一時的に同化し質量を変えているからである。しかし、綾霞にはそんな事は解らないので美咲は物凄い力持ちと言う事で認識されている。
 綾霞にとって美咲は憧れの象徴だ。
 常に自分の信念を崩さない物腰と、全ての物事に余裕を持って行動するその姿勢に憧憬の眼差しを向けているのだ。祐一が聞けば問答無用で止めろと言うだろうが。
 綾霞が見ているのは偶像であって美咲本来の姿ではない。彼女は人をおちょくったり、からかったりするのが趣味という悪癖のある女なのだ。彼女は面白ければ標的がボロボロになろうと言葉で突き刺し、切り裂き、殴り続ける。過去に、美咲の毒舌を喰らって再起不能に陥ったのも両手では数え切れないほどになっている。美咲の余裕そうな態度もあえてそう見せることで相手の神経を逆なでするという目的からだ。元々の素養があったにせよ、人をからかって遊ぶという辺りは、祐一とよく似ていた。
 兄として、人として綾霞にはそんな女にはなって欲しくないのだが、兄の心配を他所に愛しき妹の妄想は加速の一途を辿っていく。
「私もあんなふうに格好良くって強くなりたいなぁ。どうすればなれるのかな? ……まずは、髪を伸ばす所から」
 そう言って自分の前髪をいじってみる。少し不満げな顔をした。
「お姉ちゃんの髪には程遠い」
 綾霞の髪は肩に掛かるか掛からないかと言う所のセミロング。大して美咲は肩下辺りまであった。自分のは少し短い。
 それに、美咲の様に艶やかではない。自分のは少々毛が太い気がする。あの人の髪はもっとしっとりしていた。
「む」
 どうやら、目指す目標はかなり遠そうだ。でも、それだけにやる気が湧いて来る。
「よし。頑張るぞ」
 両手を胸の前で握って燃える綾霞だった。










 掃除機片手に家を徘徊するのは沙也香だった。
 狙い澄ましたヒットマンの様に掃除機の柄を前に向けて足音を立てないように歩く。
「目的地に到着。以降は各自の判断で行動せよ」
 スパイ映画の見過ぎか、あるいはこの部屋に入るのがそこまで勇気がいる事なのか。沙也香は恐る恐るドアを開けた 
 ドアには「沙也香の部屋」とプレートが下がっていた。
 部屋の中は雑然としていた。
 ある程度の種類分けはなされているが、どこか落ち着かないと言った印象を受ける。
「女の子の部屋じゃないよなー」
 やはり、床に直接物を置くのはまずいのではないだろうか。足の踏み場はあるがどこか狭いと言った印象を受ける。
 敷地面積としては沙也香よりも狭い祐一の部屋の方が広いと感じる程だ。しかし、自分の兄は物欲があまりないらしく物をあまり買わない。それ故にスペースが余っているのだと思う。大して、自分の部屋と来たら。
 見ているのが嫌になって来た。しかし、片付けると決めたのだからやろう。
 沙也香は決死の思いで部屋の片づけに向かった。
 30分程して、あらかた片付く。
 読まなくなった本屋、古雑誌は紐でふん縛って御用にした。今度ちり紙交換にだそう。
 小物類も整頓できたし、これで向う一ヶ月は保つはずだ。
「でも、一ヶ月しか保たないんだよね」
 今度から衝動買いは控えようと心に誓う沙也香だった。
「……いつまでも嘆いてないで他の所もやるか」
 再び掃除機を片手に家を徘徊する事にした沙也香。
 今度は綾霞の部屋に来た。
 一応ノックをして、中にいない事を確認してから部屋を覗いた。
 自分の部屋とは対照的に綺麗に片付けられた部屋。どこか後光が光っている気がした。
「うっ。ま、眩しい! どうしてあたしとこんなに違うんだよ!!」
 それはずぼらだからだと兄の突っ込みが聞こえて来そうだ。そんな幻聴を聞き流して、沙也香は掃除機をかけようとしたが、そこで踏み止まる。
 何かおかしい。何故、床が光っているように見えるんだろう? 先ほどのは誇張表現だったのではないか?
 震える手で触ってみても埃一つ着かない。
「あの娘、もしかして濡れ拭きしてるのか!?」
 何処まで完璧超人なんだ! 姉さんでもそこまではしてないぞ!
 ヤック、デカルチャーって感じだった。
 とてつもない衝撃を受けた沙也香はずるずると掃除機を引きながら、部屋を出ていった。
 失意の沙也佳が向かったのは兄の部屋だった。
 この部屋の主な利用者は二人。言うまでもなく祐一と美咲である。
 家を空けることの多い相沢家と霧野家の大人達。隣の一軒家に一人で住むには寂しすぎると言うことで、美咲は良く相沢家に泊まりに来ていた。いや、居候と言った方が良いかも知れない。
 相沢家の家族構成は五人家族。家の部屋数は空いているはずがない。なので美咲の寝床という物がないわけだが、彼女は実に当たり前のように祐一の部屋で寝泊まりしていた。勘繰る勘繰らない以前に、二人の仲は熟知しているので苦言は言わないが、せめて夜の音だけはもう少し静かにして欲しいものである。一応中学生の身分から言わせてもらえば恥ずかしすぎると言うものだ。
 最近の若者は無節操だと言われがちであるが、あの二人には当てはまらないだろう。確かに毎晩の如く事を致しているようだが、それに溺れることなくごく普通に日常を送っている。今時あんな自制心が働く若年者は少ない。
 変なところで沙也佳は感心していたりするのだった。
「まあ、姉さんが掃除とかしてるから軽くかけるだけで終わりよね」
 あの完璧超人の美咲が掃除をしないで自堕落な部屋にいるとは思えない。兄の部屋に物が少なすぎることも手伝って綺麗に整頓されているはずだ。
「じゃあ、サクサクと終わらせるか」
 沙也佳はどうにか気力を上げてドアをノックした。










「あー、面倒くさいわ」
 そう呟いたのは美咲だった。
 ここ一週間ほど家を空けていたので少々埃っぽいのは覚悟していたのだが、予想よりも酷かった。
 今の美咲は、髪が邪魔にならないようにゴムで後ろに束ねた格好をしている。手に持っているのは埃で汚れた濡れ雑巾が一枚。典型的な掃除スタイルだった。
「冷蔵庫は空にして置いて正解だったわね」
 もしも、中身がそのままだったら……。考えたくもない事態だった。
 よし、今度からは計画的に泊まろう。あくまで相沢家に居座る気でいる美咲だった。
 使っていない書斎、使っていない自分の部屋、使っていない台所と各場所を丁寧に拭いていく。まるでシーズンオフのペンションの管理人みたいではないか。あちらは利益を見込んでの清掃に対し、こちらはボランティア。美咲は段々と無表情になっていった。
「家に帰ってこないなら必要ないじゃない」
 美咲の呟きは霧野夫妻も一度検討したことだった。一年の内一ヶ月ほどしかいられないのでは家としての意味がないのではないか。
 しかし、帰る家があるからこそ仕事をがんばれるわけで、両親はそう言う結論にいたり美咲に家の管理を任せたのである。
 殆ど相沢家の居候と化した美咲ではあるがこうして家をちゃんと管理している辺り、自分の家にもそれなりに愛着があるらしい。ぶちぶちと文句は言いつつも身体はテキパキと動いていた。
 あらかた掃除をし終わった。風呂場やトイレなども残っているが使っていないので放っておくことにした。あれは月一くらいで掃除をすればいい。
 やれやれと言った感じで美咲は立ち上がり、ふとある物に目を留めた。
 しばしの熟考の後、一つ頷き着替えを済ませて家を後にしていった。










 目が覚めたのは既に夕刻になろうかという時間だった。
 庭へ通じる窓から射し込む夕陽で部屋が赤い。その事に軽い頭痛を覚えたがそれもすぐに治まり祐一は身を起こした。
 時刻は六時十分過ぎ。
 結局昼からずっと寝ていたらしい。寝過ぎたためか、思考が鈍っている祐一は欠伸を一つして洗面台に向かおうとした。その時、庭先から何人かの話し声が聞こえてきた。
 誰だろうか。
 窓から庭を覗くとそこには浴衣姿の娘がいた。
「……何してんだ?」
 庭の真ん中にズドッと突き刺さっている竹や、浴衣姿からおおよそ予想できるがあえて訊いてみた。これで、羽子板をやっていると言われたらどうしようかと思ったくらいだ。
「涼んでる」
「短冊ー」
「経済的な願い事」
 三者三様に答えが返ってきた。
 祐一ははぁと嘆息した。
「沙也佳。胸見えてるぞ」
「え!? 嘘!?」
 慌てて胸元を直す沙也佳。
「綾霞。願い事は一つにしときなさい」
「えー?」
「いや、そんな厚さ三cmくらいまで書いてたら叶わないって」
「むー。解った、十枚にしとくよ」
「それでも多いだろ」
 そんなに願い事があるのだろうか。綾霞の短冊の一つを見てみた。

『姉さんのようになりたい』

 世にも恐ろしいことが書かれていた。
 これは後で妹を説得するとして、違う物を見てみた。そこには、

『姉さんのようになりたい』

「マヂですか……?」
 もしかして、全部に同じ事が書かれてる?
「綾霞さん? もしかして同じ事書いてませんか?」
「あー!? 見たの!? 人に見られちゃったら効果がないんだよ!?」
 どうやら彼女は本気で美咲のようになりたいらしい。
 確かに、家事万能で理知的で理性的で何事にも冷静な態度は年下から見れば憧れもするだろう。しかし、それは美咲の一部分でしかなく、本性はもっとドロドロとした感情を持っているのだ。主に人をおちょくるための物が。
 兄として、人として彼女を説得せねばならないらしい。
「綾霞。決して美咲のようになってしまっては駄目だ
「あっ。ちょっと、痛いってば」
 両腕をしっかりと握ってそう説き伏せる祐一。
「良いか? お前が美咲をどんな風に見ているか知らないが。あれになっちゃ駄目だ。あんなのが増殖して見ろ。精神科の医者が何人いたって足りやしないぞ!
 必死の形相で語る祐一に、綾霞は少々引きつった笑顔をしていた。解っていないらしい。祐一は更に熱を上げて喋る。
「人の弱点だけをネチネチとつついて、人が藻掻く様が好きなんだ。そんな暗黒人間になるなんてお兄ちゃん許しませんよ!?」
「あー、お兄ちゃん。解ったから、そろそろ喋るのを止めた方が……」
「良いや、解ってない! そもそも、あいつに憧れると言うところが解らない。あの女の何処に憧憬を抱く要素があるんだ? 俺としては恐怖の象徴でしか…………はっ!?」
 後ろから急激に膨れるさっきに漸く気付いた祐一。しかし、時は巻き戻ってくれるはずもなく、過ぎ去った物は取り戻せないのであった。
「あらぁ? 続けないのかしら。私としてはもうちょっと先も聞いてみたいなぁ」
 極上の笑顔でそうのたまう美咲さん。
 祐一は恐怖のあまり死後硬直並に身体が固まっていた。そこにしなだれかかる美咲。人差し指で背中にのの字を書きながら、甘ったるい声でもう一度聞く。
「ねぇ? もう一度言ってくれないかしら?」
「あ、あぅぅぅ……。あ、やか……お兄ちゃん的には助けて欲しいだけどなぁ?」
「さっきのはお兄ちゃんが悪いと思うよ」
 この世には神なんていなかった。
「祐? 覚悟は良いわね?」
「出来ればしたくないぃ!」
「飛び散りなさい!!」
 美咲渾身の一撃で祐一は民家を三つほど越えていった。
「ふん。そんな人間に惚れたあなたの方が恐ろしいわよ」
「姉さん。自覚あるんだね……」
「当たり前でしょ。自分でそうなりたかったんだから」
 その後、ボロボロになった祐一が帰ってきて、各自短冊に願い事を書き天の川を堪能した。










「所で、誰が竹なんて持ってきたんだ?」
「私」
「買ってきたのか?」
「裏手にある竹林から適当なのを……」
「……それって、窃盗になるんじゃ」
「ん。バレなきゃ良いのよ」
「良いか? こんな女になっちゃ駄目だぞ?」
「……あー、兄貴。ネタの使い回しは良くないと思うよ?」
「え゛?」
「……さようなら」
「わらばっ!?」

 ぴゅーん。どさ。

「だから言ったのに……」
「あは、あはは…………はぁ」
「ふん」















綾霞
 『お姉ちゃんのようになりたい』

沙也佳
 『受験合格……かな?』

祐一
 『金』

美咲
 『変わらぬ日常を』

 後日、竹は丁寧に燃やされた。