その時、恭也の内ポケットに入れていた携帯電話が震えた。

「ん? メールか」

 連絡用にと渡されたものであるが、殆ど私物として扱っていいとお達しが出ている。かと言って、電話をかける相手はご主人とその友人くらいなものだし、メールに関してもあまり使わない人間である。友達少ないしねっ。

「一言余計だ。えーと、内容は……」

 あまり傷のない携帯電話を開き、メールの文面を読んでみる。結構長い文章のようである。

「……これは」
「あれ? どうしたの? 恭介さん」
「ああ、アリサお嬢様。いや、メールを読んでいただけです」
「メール? すずかから?」
「いえ、違います」
「……もしかして、私達の知らないところで女の人とメルアド交換してないでしょうね?」
「メイド長の石沢さんとは交換しましたが」

 石沢さんとは五十代の恰幅のいい女性陣の長である。

「あ、そう。じゃあ、誰からよ?」
「まあ、迷惑メールと言う奴です」
「ふーん? 恭介さんのメルアドって結構珍しい奴だったわよね? よくもまあピンポイントに届くもんだわ」

 return-to-the-mirror-world.xxx.ne.jpである。早々ないんじゃないだろうか。

「私、迷惑メールって来たことないのよね。本物読んでみたいっ」

 まあこれも社会勉強か、と恭也はアリサに携帯電話を渡してみた。
 ワクワク気分全開で受け取ったアリサは、怒涛の勢いでメールを読み進めていく。
 そして、速攻で気分が急降下した。

「本日は「グラマラス群雄割拠〜85cm以下は胸と認めない〜」のご利用についてご連絡させていただきました。この度ご連絡した旨は、ご利用における契約更新が18ヶ月なされておらず、またそのご期間におきまして、下記の内容のご利用を確認しましたので、ご請求します。

 利用期間:2005/08/19〜2007/02/25
 ご利用内容:動画11本 音声23本
 総額:43.164円
 振込先:△△△―○○○○

 ――――なにこれ?
「所謂、架空請求と言う奴だろう。まさか自分が体験するとは思わなかった」
「その前に!! 85cm以下は認めないってどーいうことよ!?」
「どーもこーも、そう言う趣向の人間がいるんだろ」
「胸は胸よ! 大平原だろうと山岳地帯だろうと、等しく母性を表す象徴よ!?」
「それに異論はないが、君に85cm以上のサイズが合った場合そこまで憤ったのかどうか訊ねたい」
「そんなIFの話なんてしたくないわ!!」

 つまり、怒らないと。

「これ、ホントに使ってないんでしょーね!? 好きに使えって言ったけど、これは好きに使いすぎでしょ!?」
「おいおい。確かに女性の裸体には興味はあるが、こういう下世話なのはしないぞ」

 第一、画面が小さくていまいち面白くないし。

「とにかく、俺はこんな場所と契約した覚えがない。月々の請求だって、ちゃんと給料から引いてるだろ。請求書だって、ちゃんと目を通して、不備がないか確認も取ってる。これは立派な架空請求だ」
「……で、どうすんのよ、これ」

 ずいっと出されたケータイを受け取り、恭也はさて、どうしたものかと考える。
 この手の詐欺と言うものは、向こう側から連絡を取ってこないものだ。本当に契約していて、それで料金を払っていないのなら、企業と言うものは何が何でも回収に来るものだ。しかし、これが架空のものであった場合、こう言った文面を送りつけて、不安に思った人間がかけてしまうのを待っているのだ。請求書と言っているが、公文書偽造である。あくまでも、利用者が自主的に払うと言う形を取らなければ、法的な穴を抜けられないのだ。

「ふむ、まあ、放っておいても問題はないだろうが、暇潰しに遊んでみるのも一興か」
「へ?」
「アリサお嬢様。少々準備してきます」
「は? あ、ちょっと?」

〜・〜

 屋敷の空き部屋の一室。
 そこに備え付けられているテーブルに、ゴツイ機械を並べる恭也を、アリサは不思議そうに眺めていた。

「これから何するって訳?」
「架空請求会社遊ぶ」
「た、性質悪い」

 この男、暇だからと言ってそんなことするのか!?

「この機械は何よ? レコーダー?」
「その機能もあるがな。電話の探知機だ。かけた先の場所がわかる」
「へーってちょっと待って? 探知機ってそこら辺で買えるものなの!?」
「この前の誘拐事件で警察とコネを作ってな。いや、あれは作らされたというべきか。まあともかく、貸してくれと言ったら、旧式を一台貸してもらえた」
「ま、マジかよ……!?」
「警察も架空請求の苦情に対応し切れてないらしくてな。民間協力者と言う事で特別に貸し出してもらったのだ」

 いいのか!? それでいいのか、治安組織!?

「じゃあ、始めようか。まずは電話をかけて……」
「って、待ちなさい! ウチの電話番号相手にわかっちゃうじゃない!」

 確か、なんかのテレビで見たとき、詐欺会社もかけてきた人間の電話番号が解るとか何とか言ってた!
 だが、そんな初歩的な問題を恭也が対処していないはずがない。こう見えて、有能な執事なのである。

「こっちの電話番号は警察から借りてきたものだ。もしあっちが把握してる電話をかけても、警察の窓口に繋がるのさ」
「ハイテク! 無駄にハイテク!!」
「さあ! 業者を虐めるぞー」
「楽しそう! 楽しそうだよこの人!!」

 ピポパ。

『はい、こちらオリエンタルペーパーです』
「あ、あのぅ、僕、高原と申します。実はさっき、メールが送られてきまして……」

 突然恭也の口調が変わった。少し気弱そうな声色を使い、それっぽい言葉を選んでやがる。その癖、顔はいつものままなので、アリサは背筋が寒くなった。笑えない。それは笑えないよ恭也さん!

『高原さんですね。ええと、「グラマラス群雄割拠〜85cm以下は胸と認めない〜」のご利用についてですね?』
「ええっと、それです、はい」

 一先ず認めておく。
 それを皮切りに、電話の向こう側が口早に説明を始めた。

『こちらですねぇ、ご利用が2005年の8月19日から2007年の2月25日までと記録されてまして、その間の契約料と利用料が支払われていないんですよ。総額43,164円となります』
「あ、あのですね。僕はこのサイト使ったことないんですよ」
『は? いえ、そう申されましてもこちらはそう言う資料を頂いてるんですが』
「でも、僕、あんまり携帯電話って使ったことありませんし……」
『いえ、請求は来てるんですよ。ほら、ここに』

 がさがさと受話器越しに紙が折れ曲がる音が聞こえる。

『これがある以上、そちらにお支払いしていただく義務がありますので』
「何かの間違いとかじゃないんですか?」
『高原さんの名前を教えていただいてすぐに資料が出てくるって事が何よりも証拠だと思いますがね』
「そ、そうなんですか……いつの間にかそんな事してたのか……」
『そうなんですよ』

 アリサは傍から見てて、業者の態度が変わってきた事を感じ取った。
 なんと言うか、態度が段々強気になってきたのである。恭也が弱気な性格を演じているからか、相手方は「こいつなら払わせられるっ」と踏んだらしい。

「あの、使ってた期間って、たしか2005年の8月なんですよね?」
『ええ、そうですね。そうなってます。まあ、この時期は何かと皆さん解放的になられますから、その勢いで使ってしまったのではないでしょうか? いや、私も昔はそんなことして請求額がとんでもない事になって焦ったものです』
「はぁ……」
『まあともかく、お支払いしていただけるんですよね?』
「えっと、あの、根本的な話、いいですか?」
『根本的? はい、なんでしょう?』
「――俺、ケータイ買ったの三ヶ月前なんだが」
『…………………………………………………………………………』
「…………………………………………………………………………」

 時が、止まった。

『そう言う冗談は笑えませんねぇ。ほら、この通り請求書がこちらの手元にあるんですがね』

 業者の態度が硬化した。今までの強気な姿勢のまま強行する気らしい。
 しかし、相手を手玉に取る事にかけてはそうそう負けることがないのが恭也である。

「そう言うのって本人に郵送で来るもんだよな? なんでわざわざあんたのところに回ってきてるんだ?」
『私達はそう言うのが仕事でして』
「ああ、仲介屋か。まあ、だとしたところで、なんであんたたちから連絡が来ないのかね?」
『それはメールでお伝えしたはずですが』
「あれでか? つか、請求するんだったら書面だろ、普通。大体にして、俺は「グラマラス群雄割拠〜85cm以下は胸と認めない〜」って所に電話したつもりだったんだけど、出てきたのは「オリエントペーパー」って会社だ。この辺、詐欺じゃないか?」
『詐欺なんて、人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。それは「グラマラス群雄割拠〜85cm以下は胸と認めない〜」さんの手違いでしょう。前にもウチの会社の名前が書いてないって苦情が来たことあるんですよ。いい加減ですよねぇ』
「ま、手違いってならそれでいい。で?」
『はい?』
「俺はどーすればいい?」
『そりゃあんた、支払ってもらわないと。使ったんだから』
「さっきも言ったように俺がケータイを買ったのは三ヶ月前なんだがね」
『払いたくないからそんな事言うんでしょ? たった四万三千円じゃないですか。この程度のお金を惜しむのは器が小さいですよ』
「…………」
『第一、あなたこんな真昼間に電話してくるって事は職についてないんでしょ? 社会的保障とか信用がないし、手持ちがないから出し渋ってるんでしょ? でもね? 世の中ってのは、往々にして厳しいものなんだよ?』

 なんか、説教され始めた。
 恭也はちょっとだけ受話器を離れたところに持った。
 推移を見守るアリサも、うんざりした顔をしていた。恭也に社会の厳しさを問うのは完全にお門違いだ。何せこの男、斬った張ったの世界に首を突っ込んでたのだ。信用とか義理とかの世界は、表の世界よりもさらに厳しいのである。

『――ま、だからさ。この際お友達にお金借りるとかして、払ってもらえませんかね?』
「払えないって」
『……あのね? ウチもね? こういう仕事してるから、あなたみたいに出し渋る人がいるんですよ。で、その為の対策マニュアルってのがあるの。その中には警察に通報して、逮捕してもらうってこともありえるんだからね?』
「へぇ」

 その前に、客を前に「あなた」とか言ってる時点で、接客態度が悪い。ちゃんと訓練されてない素人である。

『信じてないでしょうけど、本当の話なんですよ?』
「時々ニュースでやってるな。見たことある」
『でしょ? でもさ、逮捕とかって嫌な話じゃない。お金払えば済む話なんだし。だから、払いましょうよ』
「いや、使った覚えのないものには払えないな」
『――――』

 受話器越しに、大きく息を吐く音が聞こえた。

『いいか? 使った分の金を払わないってのは詐欺なんだぜ? 解ってんのか!? お前、こっちを詐欺詐欺言ってやがるが、お前の方が立派な犯罪者なんだよ!! それを俺等は、払うもん払えば帳消しにしてやるって言ってんだ! こっちは18ヶ月も待ってやったんだ!! さっさと払えよ!!』

 怒声が、響いた。アリサが心持ち、体を硬くしたのを横目に見ながら、恭也は口の端を吊り上げて言った。

「と言うか、そんなに溜まる前に通知を出すのが常識的な対応じゃないのか?」
『ああ? こっちは何度も通知出してんだよ。それを散々無視したのはそっちじゃねえか!!』

 初耳である。
 そもそも、恭也のメールボックスにはアリサとすずかからのメールくらいしか入ってないのだ。広告メールの類だって、ありはしないのである。

「いや、メールが来たのは今回が初めてなんだがな」
『知るかよ! こっちは真面目に仕事してんだよ!』

 真面目に詐欺ねぇ。

「ともかく、覚えのないものに払う金はないんだ」
『……ああ、そう。なら、こっちもこっちでやり方がある。お前んとこにお邪魔させてもらうよ』
「ほう? ここの住所知ってるのか?」
『ああ、知ってるとも。精々部屋の隅でガタガタ震えてる事だな。あー、言っておくが、居留守使っても無駄だからな、出てくるまで張らせてもらうぜ』

 それだったら、来る前に逃げてしまえばいいんじゃないだろうか。
 この業者、頭悪い。

「ふーん? この家にねぇ」
『そうだよ。ま、あんたもこっちが訪ねるのは嫌だろ? だからさ、さっさと払っちゃえよ』
「だから、払わないと言ってるんだが」
『じゃあ、踏み込ませてもらうよ。金がなきゃ、家財道具取り押さえるからな』

 無茶苦茶である。
 恭也は、探知装置の横に置いてあるノートパソコンをカチカチと操作し始めた。

「――ま、こんなもんだろ」
『あ? なんか言ったか?』
「今までの会話は録音されてる。恐喝罪で警察に提出だな」
『は? 馬鹿いってんじゃねぇよ。お前が払うもの払ってないからだろうが!』
「調べれば俺が携帯電話を買ったのが三ヶ月前ってのはわかる話だしな。俺が負ける要素はどこにもない」
『…………』

 数秒黙り込んだ。受話器の向こうで、小さい声で何かを話してるようである。流石に恭也の耳でもその会話は聞き取れなかった。

『もしもし? お電話代わりました』

 そして、出てきたのは別の人間である。

「は? どちら様ですかね?」
『先ほどの者の上司です』

 上司と来たもんだ。

「はあ、それで、上司の方が出てきてなんでしょうかね?」
『お客さん、使用料金を払い渋ってるようですね。でもね? こっちにもこうやって請求資料が回ってきてるって事は事実なんです。この書面だって法的には何の問題もないものなんですよ。だから、払わないとあなたが犯罪者になるんですよ?』
「その書類が問題なくても、その書類を作る課程に問題があるでしょうに。俺は利用してないんですがね」
『そう言い張る人が多いんですよ。でもね? こっちもこれでご飯食べてる訳ですから、真剣になってるんです。ちゃんと払ってくださいよ』
「払う気はこれっぽっちもないよ」
『……そうなれば、あなたの自宅ウチの者がを訪ねる事になりますね』
「来ても構わないけどな。SPに殴られるのを覚悟すれば」
『…………はぁ、あなたね。そんな見え透いた嘘なんて言うのは子供ですよ?』

 恭也とアリサは苦笑を浮かべた。まあ、普通はそう思うだろう。しかし、事実である。
 これまで、散々家を訪ねると言っているが、恭也が住んでいる場所の正確な位置をあちら側は言っていない。つまり、業者にそんな資料はないのである。

『そもそも、電話の内容を録音したって言ってるけど、こんなのを警察に届けても対応してくれないよ? だって、そっちに不備があるわけですし。嫌でしょ? 「グラマラス群雄割拠〜85cm以下は胸と認めない〜」なんて連呼するのは』
「別に? 知り合いが警察官だしなぁ。今回だって、レコーダー貸してもらってるんだよ」
『あなたの冗談には付き合ってられませんよ。さっさと払ってくださいね? でないと取り立てに行きますから』
「――ところで、あんたら散々俺の家を訪ねるとか言ってるが、ちゃんと場所把握してるのか?」
『してますよ。登録したら、電話番号と住所が記録されるんですから』
「ふぅん? じゃあ、正確な場所、言ってみろよ」
『……ははあ? あなた、ホントは訪ねてこないって踏んでますね? 馬鹿ですねぇ。こう言うのは、企業ってのはちゃんと管理してるんですよ?』

 だからこそ、住所なんて解るはずがないんだが。
 それに、話を微妙に変えている。住所を言う必要がないと言う形にしたいようだ。

「へぇ、個人情報駄々漏れだな」
『これは業務ですからね。仕事の為に使うなら、許される事ですから』
「でもなぁ、使った覚えがないしな。ああ、酒とか呑まないから記憶ないまま使ったとかはないぞ?」
『でも、記録がありますんで』

 話は平行線である。
 アリサは恭也がどういう手に出るのか、興味深々だった。

「じゃあ、あれだ。その資料――書面? って奴を見せてくれないか? 公文書なら、支払人の俺も目を通さなきゃならないし」
『いえ、あなたはお金払うだけでいいんですよ。事務手続きはこちらがやりますから。こういうのがサービス業の仕事ですからね』
「いや、確かめないと駄目だろ」
『何故ですか? 面倒な手間になりますよ? お金払えば、後はこっちがやりますし』
「俺は嫌だ。今からそっちに行くよ。場所はどこだ?」
『……あのね。こうして電話してるのも、あなたに時間を取られるのもこっちは困ってるんです。他にも一杯電話しなきゃいけないんですよ。あなた一人にこんなに時間を割いてる暇はないんです』
「ああ、じゃあ、尚更俺が一人でやっておくよ。だから、場所はどこだ?」
『あなた、変人ですよ。変な人』

 ここで恭也は、探知機を操作し、相手の場所を割り出した。

「どう言われようといいけどな。ああ、あんた新宿にいるの。ふーん、結構いいところに会社あるな」
『――――』

 電話の向こうで息を呑む気配がした。
 恭也はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

『適当なこと言』
「北新宿百人町の交差点近くか。これなら、そうだな、一時間くらいで着ける」
『――――』

 完全に固まってる。さらに追い討ち。

「ああ、今まであんたが冗談だと思ってた事だけどな、全部本当だ。今回は警察に協力してもらって、探知機とか機材を貸してもらっててな。あんた等みたいな詐欺師の尻尾を掴む為にやったんだよ。いやー、悪いことってのはいつか自分にしっぺ返しがくるんだよな」
『あ、が、なっ』
「ああそうそう。探知機は警察にも繋がっててな。今までの会話もあっちで記録されてるよ。そろそろサイレンが聞こえてくるはずだぞ」

 風切り音が物凄く聞こえる。かなり焦ってるようである。

「まあ、この会話は別に証拠にはならないから安心しておけ。日本はおとり捜査認めてないからな」

 あくまでも、尻尾である。この詐欺師どもを逮捕するにしても、被害届けが必要なのだ。まあ、それらは全部用意してあるようなので、準備は万端である。
 今回は、恭也自身が被害届けを出して、捜査令状を採ると言う形を取ったのだ。恐喝されましたと言う被害届けを。まあ、仮に恐喝紛いの事がなかったとしても、無理な取り立てをされたと言う文面の被害届けも書いているので、抜け目ない。

「じゃあな。もう悪い事は止めろよ」
『ま、待t』

 がちゃっと受話器を落とした。これ以上話す事はない。

「うーむ。歯応えがなかったな。イギリスのネゴシエーターの方がもう少し頭回ったぞ」
「いや、それと比べるのおかしいから」

 ようやく台詞があってかなり嬉しそうなアリサである。

「この業者ってか詐欺師、頭悪いわよねぇ。不必要なことボロボロ喋ってるし。同じ事しか言わないし」
「大体がヤクザがやってるしな。と言うか、ホントに頭悪い話なんだよ」

 窓口である電話応対に頭の悪い人間を回すのは大馬鹿である。架空会社を用意したり、架空請求の文面やらダイレクトメールやらを作るなど、そう云った細々した作業はどうしても効率的な方法を取らなければならない。そして、その効率的な方法を取れるようにあらゆる事を用意するには、頭の切れる人間がいなければ駄目なのだ。トップが頭が良くても、顧客が実際に話す相手は頭が悪いのだ。どれだけ巧妙に真っ当な会社に見せても、世間との接触部分が頭悪いのでは意味がない。

「確かにそうね」
「総じて、奴等は馬鹿と言うわけだ。まあ、中には恐ろしいほど頭のいい奴らが集まってやってることもあるが、そんなのは極一部だ」
「身に覚えのない請求に関しては無視していいってことね?」
「それは早計だな。ちゃんと事実関係を確認しなきゃならん。今回はケータイでエロサイト見たってことで請求が来たが、そもそも、ケータイを持ってない時期に使えるはずがないしな」
「ま、まあ、そうなんだけどさ」

 いきなり出てきたエロサイトと言う単語に頬を赤くするアリサ。無論、恭也は解ってて使ったのである。

「こういった請求が来て、身に覚えがなかった場合は、とりあえず電話する事だ。支払いに関しては、後で払うとか言って切ってもいいんだし」
「その後に警察に行くと」
「まあ、警察も忙しいし、袖にされるかも知れんが、その後何か問題があっても、自分は悪くない。警察が悪い事になる」
「腹黒! 腹黒だよ恭也さん!!」
「昔、笑いの師匠二号に教えてもらったことなのだよ」

 咥え煙草でニヤニヤしながら電話をかけた彼女に、恭也は大いに笑ったものである。あの時の対応は未だに笑える。

「さて、そろそろいい時間だ。お茶と菓子を用意しようか」
「うん、そうね。――ところで、この話、アリサの如く!? とか言ってる割に、私全然喋っt」
「お茶お茶ー」
「ちょ、こら! 話を聞きなさいってばー!!」

*この話における設定、人物、その他あらゆる事は全て二次元での話なので、実在しません。
 あと、架空請求の対処法にしても、真似できる人がいるとは思えませんが、推奨しません。
 架空請求が来たら、速攻で警察に駆け込みましょう。