「すまん、不破」

「私が指示した事だ、気にする必要は無い」

街中を歩きながら恭也はボロボロになった自らの愛刀『不破』のAIである、

リィンフォース・アインとそんな会話を交わした。

「本当にすまん」

「気にするなと言っている」

「しかしな・・・」

「くどいぞ、恭也」

インテリジェントデバイスに謝り倒す人間は街中ではとても目立つのだが、

二人は気づかずにいた。

「不覚だ・・・」

「今度は落ち込むのか。忙しい奴だ」

「だがな、自分の刀を使いこなせないなど、剣士として未熟もいい所だぞ」

「バリアを貫通されたのは剣士としてと言うより魔導士としてだ。

更に言うなら魔力不足は資質の有無が大きい。

重ねて言え魔法展開時、

『不破』本体を前にかざす様に指示したのは私だ」

「御神の剣士が障壁に頼った時点で未熟と言われても仕方ないんだがな…」

「寧ろ私の研究不足だ。

出力が低くても術式構成さえ精緻ならもっと耐えられた。

パートナー失格だな」

「そんな事はないさ。

相棒の力を生かす事が出来ない不甲斐ない主に責任がある」

「主の期待に答えられないパートナーに意味はない」

沈黙が降りた。

恭也の視線が『不破』に向けられる

関係者がみれば恭也と睨み合うリィンフォース・アインを幻視しただろう。

暫く後、恭也が妥協案を出した。

「………ふぅ。解った。

今回はお互いがお互いを生かしきれなかった、

と言う事で手打ちにしよう」

「…了解した。

互いに更なる研鑽に励むとしよう」

「そうだな」

取りあえず落とし所は決まったらしい。

「では、仮死モードに入る。」

「ああ。

親父さんの所に着いたら起こす。」





「また派手にブッ壊したもんだな」

「面目ない」

再び凹む恭也。

恭也の周辺では通称デバ爺と呼ばれている

その老人は苦笑いで言った。

「誰もお前さんが雑な扱いしてるたぁ、思っちゃいねえよ。

『不破』の嬢ちゃんもただの飾り物なる気はねぇだろ?」

「当然だ」

「お前さんが気にしてるのは、

『不破』の中の嬢ちゃんを危険に晒した事だろう?」

「……」

「恭也…」

「安心しな。

お前さんが『不破』から手を離さねぇ限り、

お前さんの手より先に嬢ちゃんが消える事はねぇ。

『不破』の方は壊れたら俺ん所に持ってくりゃいい」

それでも納得していない顔の恭也。

「恭也。私達はパートナーだ。

同じ戦場で、同じ危険を共にする。

私は恭也を守る。

恭也が私を守る事は『道具』としては納得できないが、

私の事は気にするなと言っても納得しないだろうし、

『私』としては嬉しくもある。

それにさっき結論は出した筈だ。

これ以上引きずってくれるな」

「…解った。

確かにさっき手打ちにしたからな。

親父さんも、気を使わせて申し訳ない」

「けっ。

俺は目の前でうじうじされんのか嫌なだけだ」

少し照れた様だ。

「で、こいつの修理だな。

こいつが無きゃ仕事になんねぇだろうしな。

三日でなんとかしてやる」

「親父さんそれなんですが…」

「ん?」

「刀身を新しく特注しようと思いまして」

「いままでの刀身は魔法を斬るように出来ていなかった。

と言うか魔法はかわすか、魔法で防ぐものであって斬る物ではない。

だが恭也はそれをやってのける。

それに耐えうる鉱物をずっと探していて、

それが先日遂に手に入った。」

「ですが剛柔性に富んで耐魔法、耐熱と言う性質から加工が難しいらしく、

二週間程掛かると言われてしまいまして…」

「成る程な。

しかし仕事はどうすんだ?」

「不本意ですが休むしかなさそうです」

「不本意なのか?」

「ええ。

実戦から離れる時間が長い程、感覚は失われますから」

その言葉を聞き、デバ爺は考え込み始める。

「恭也は働きすぎだ。

実際有給も殆ど使っていない。

総務課からも催促があったのだから、

良い機会だろう」

「使うとしても三日で十分だ。

それ以上はやる事が無くて困るだろう」

「だいたいその三日何に使う気だ?」

「一日目、掃除。

二日目、盆栽。

三日目、釣りだ。

休暇中に鍛錬しようとすればはやてが怒るからな。

お前もすぐ報告するだろう?」

「当然だ。

休暇は休む為のものだ。

しかしそれは絶対、未婚者の休日じゃないな。

誰かをデートに誘うという選択肢は無いのか?」

「誰をだ?」

「…はやては?」

「仕事だろう」

「仕事が無ければ誘うのか?」

「うむ。

リィンUを遊園地に連れて行く約束をしているからな」

「それはデートとは言わないだろう。

しかし相変わらず夫を飛び越えて父親…いや祖父なのだな」

「因みにヴォルケンズも一緒だ。

部隊運営の問題上、無理だろうがな」

「完全に家族サービスだな」

そこでデバ爺がおもむろに立ち上がる。

「親父さん?」

「ちょっと待ってろ」

そう言って奥へと消えていく。

「何なんだ?」

「さぁ?」

五分もしない内に帰ってきた。

「こいつをやろう。

デバイス中枢を嬢ちゃんに換えるのは今日中にやってやる。

取りあえず開けてみな」

若干戸惑いながらもデバ爺が突き出してきたアタッシュケースを受け取り、開ける。

「こ、これは!!?」





「では、恭也さんの新デバ「新ではない。仮だ。つなぎだ。代用品だ」

まぁなんでもええけど、デバイス試運転を始めるで〜」

思いっきり、不本意な顔の恭也。

「俺はこれを使う位なら二週間休みでも良かったんだがな…」

「諦めろ。

どちらにしても試作品の評価を伝えなければならないんだ。

遅かれ早かれ使う事になる」

「さぁ、恭也さん。セットアップや!!」

「…はぁ。

不破、セットアップ」

「恭也。

ちゃんと今の私の名前を呼んでくれ」

「……アインバックル、セットアップ」

「stand by ready」

その声と共に恭也の腰にベルトが顕れる

腰の前に大きなバックルが着き、バックル部分に6つのカートリッジが見てとれた。

「さぁ恭也。パスワードを入力してくれ」

「………勘弁してくれ」

「パスワードを入力してくれ」

「くっ…」

「パスワードを入力してくれ」

「恨むぞ、不破…。」

恭也は周りを見回す。

見えるのは訓練相手として投入されたスターズ、ライトニング隊の八人。

過剰戦力に見えるがこれ…アインバックルの機能を考えれば仕方ない。

ないのだか、感情は納得しない。

しかもリィンフォース・アインの提案でこの三部隊合同演習となったのだが、

スバルとティアナは自分達が恭也になめられていると判断したのだろう、

顔が怒りに染まっている。

恭也は一度天を仰ぎ、諦めきった表情のまま、

右手を自分の左斜め上へ、左手を腰の横に持っていく。

「変身…」

「road cartridge.set up」

周囲に閃光が満ちた。





「バリアジャケット…カートリッジまで使って!!?」

「テスタロッサ、油断するな。あれは恭也だぞ。

……ヴィータ、高町!!?」

いつの間にか閃光は止んでいた。

そこに立つ恭也の姿を見て、

呆然としていたなのはとヴィータは呟いた。

「うそ…」

「仮面……ラ○ダー」

そう。

そこにいたのは間違いなく仮面○イダーだった。





腰に二本の小太刀と二つの風車のついたベルト。

黒い鎧型ライ○ースーツに紅いマフラーは激しく合っていない。

自分の姿に溜息をついてから、

再び周りを見回す恭也。

理由は違うようだが皆茫然自失といった感じだ。

「気分はどうだ、恭也?」

「今すぐ切腹したい気分だ」

「中々だと思うが?」

「これの意味を知らないからそんな事がいえるんだ…」

「一応、搭載時に一通り資料は貰っているが?」

「なら解れ」

「ならその上で言おう。似合っているぞ」

「…そうだ。

親父さんに弾丸撃発の度に、

体中くすぐられる感覚が流れる様にして貰うとしよう」

「私の悶える声が聞きたいのか。

恭也はマニアックだな」

「違うわっ!!」

テンションの低いせいか妙に押され気味の恭也であった。

そこにスバルが突っ込んでくる。

後ろには数瞬遅れてエリオ、

後方に援護射撃態勢のティアナと補助魔法を展開しているキャロ。

それを確認した恭也はまず、

ティアナの射撃を避けながら、

右手でスバルの攻撃を受け止める。

ガツン!!

(受け止められた!?)

スバルは慌てて距離を置こうとするが、

「がっ!!?」

同時に反対の手で鳩尾に拳を叩き込まれる。

徹の一撃。

重ねた煎餅の2枚目だけを砕く恭也の徹の前に

バリアジャケットなど意味がない。

意識が飛んだようだ。

暫くは目覚めないだろう。

因みに格闘技では、

頭への一撃は天国の快楽、

鳩尾に一撃は地獄の苦悶と言われる。

苦しみは推して知るべし、である。

(俺が攻撃を受けると思わなかったか。

油断だな)

実際いつもの恭也は足を使った回避が主で、

受けなど滅多に使わないのだが、

決めつける事は実戦では危険な行為だ。

(しかし、大した防御力だな)

強化魔法が常時発動しているラ○ダースーツには、

傷もついていない。

そのままスバルを盾にしてエリオに向かい走り込む。

慌てて飛びずさるエリオ。

(距離を取ったか。だが…)

攻撃するフェイントをかけてから、

エリオの横を抜けキャロに向かう。

「抜けていった!!?」

慌ててフォローに入るエリオ、だが間に合わない。

「ギャウゥゥゥ!!」

「!?フリード、ダメっ!!」

スバルを盾にしている為、キャロがフリードを留める。

後衛でも比較すれば接近戦もできるティアナは

既に距離をとる体制だ。

(ランスターのフォローはなしか。

ならばその隙、貰い受ける)

手刀一閃。

キャロの首筋に一撃。

「あっ…」

そのままフリードを捕まえ、

倒れるキャロの下に放り込む外道恭也。

「!!キュウゥゥゥ…」

そして駆け込んでくるエリオに、スバルを無造作に投げつけた。

「うわっ!」

受け止めるエリオ。

(未熟…)

スバルに動きを封じられたエリオに手刀を落とす。

声も無く崩れ落ちるエリオ。

三人と一匹を撃破した。

「嘘…」

距離を取る為に跳躍したティアナは、

その間に起こった早業に動揺したのか隙だらけだった。

あっという間に距離を詰められる。

エリオとキャロの二の舞にはならないと首筋をガードするが、

「かはっ!」

恭也は慌てず鳩尾にボディーブローを叩き込む。

結局はスバルの二の舞になってしまった。

(少し手荒になってしまったな…

この鎧はどうも加減がきかん様だな)

(魔力を使わずに勝つには必要な事だ。

シグナム達を魔力の少ない状態で下す事は難しい。

その為に魔力はいくらでも必要だ、仕方がない。

しかし、ルシエとモンディアルには随分優しかったが?)

(雷様の怒りは俺とて怖い)

(成る程)

「…あの四人は後で高町の特別教練だな」

「だろうな」

シグナムに自然に答えながら、

声の方向に向き合う。

シグナムの後方上空には砲撃準備を完了したなのはが見える。

背後には二つの気配。

目を向けるまでもない。

フェイトとヴィータだ。

「まだ配属間もないとは言え、

あの四人の練度はそれなりのレベルにあった。

平常心さえ忘れなければ、

こうも簡単にいかなかった筈なのだがな」

「何、まだ各個の特性までは、

互いに把握しきれていなかった様だったからな。

お前達の指揮があれば負けていたさ。

それにこの演習の目的はデバイスの試運転だ。

お前達が様子を見ていたのも一気に勝負をつければ、

試運転の意味が無いと考えたからだろう?」

「確かにな。

しかし、かなり堅固な鎧だな。

さっきの動きを見る限り、

身体能力の強化もしているのか?

だとすれば凄まじい性能だな」

「高性能なのは認めるが、

その代償に「road cartridge」…が一分毎に必要らしい」

タイミングの良い不和の声に

苦笑いしながら答える。

「豪勢なシステムだな。

だが、これで詰みだ。

さすがに八対一で負けられんからな」

「いくよ、お兄ちゃん。

全力全開、スターライトブレイカー!」

「何ぃ!?」

(やり過ぎだろう!!?)

再び恭也の周囲を閃光が包んだ。





閃光に包まれていく恭也を見つめるシグナム。

すでに光の奔流に飲み込まれた後でさえ、

目を逸らさなかった。

『どうしたの、シグナム?』

『あの男なら今この瞬間、

目の前に飛び出してきても不思議ではないからな。

非常識さでは人後に落ちん男だ。

警戒は怠るべきではない』

『さ、流石にそれは無いんじゃないかな?』

『どうだかな。

それにそう思わせるだけの前歴がある』

『あ、あはは…』

乾いた笑いを念話で送るフェイト。

ヴィータも同じ考えらしく、

一時も目をそらしてはいない。

そして真面目な顔を作ってから再び答えを返す。

『でも、あの恭也さんと正面から戦う事にならなくて良かったと思う。

いつもの恭也さんも十分手強いのに、

あのとんでもない運動性が更に上がってるなんて…』

『たしかにな…

神速を使われる前に勝負を決められたのは正直、有難い。

…光が消えるぞ!』

そして、気を失っているであろう恭也を確認しようとして…

「いない…!?」

「!?しまった!!」

「くそっ!!」

「Protection」

レイジングハートの声が響き、

三人はそれぞれ全力で救援に向かった。





ガリガリと音を立てて、

拳とバリアがぶつかり合っている。

このままではバリアは破れないだろう事は見て取れた。

(状況は?)

(やはり、テスタロッサが抜きん出て迫ってきている)

(計画通りか。

なら、先ずはなのはだ)

刹那で思考を交わす。

目の前の呆然とした顔が現状を認識する前にケリをつけなかれば

恭也の負けである。

(不破、三連撃発。魔力、腕部集中)

(road three cartridge.ri○er punch)

ブゥゥゥゥゥゥンと音を立て、

腕が赤くそまってゆく。

そして、



パリィィィィン…



輝く壁が砕け散った。

その頃にはなのはは自分を取り戻していた。

(だが遅い)

なのはが恭也を認識して二秒と少し。

決め手をかわされ、

更には倒した筈の相手が目の前に、

それもいきなり現れた状況では

早い立ち直りかもしれないが、

相手がそれ以上に早ければ命取りになる。

そのまま拳は突き入れられた。

バリアジャケットがはじけ飛ぶ。

「え…?」

直後頭に触れた衝撃でなのはは意識を閉じた。

(初撃で落とせんとはな。)

(許容範囲内のロスだ)

(後ろは?)

(八時下方二十メートル)

(二連撃発、脚部集中!)

(road two cartridge.r○der kick)

回し蹴りの要領で遠心力をつけ、

直線加速に変える。

強化された身体能力は予想以上の結果を出し、

恭也の体は流星となった。

双方の加速により、

接触までは瞬きの間。

恭也の動きに気が付けても、

反応は出来ない。

「Defensor」

バルディッシュの自動防御も、

二つのカートリッジが生み出す魔力に成す術はなかった。

拮抗する間もなく砕け散るバリア。

「あ…」

バリアを貫通した蹴りの威力を腹部に感じ、

フェイトは意識を手放した。

(流石に手加減の余裕は無い。

許せ、フェイト嬢)

苦しくとも女性は下腹部より鳩尾の方が、

子宮にダメージが入りにくく安全なのだ。

バリアジャケットがあるとはいえ恭也的には心苦しいようだ。

(まぁ、もしもの時は恭也がもらってやればいい)

(嬢が嫌がるだろうさ。

それに貰う前に氷漬けだろう)

(アルカンシェルも付く可能性があるな)

(…あとで謝っておくか)

(ああ恭也)

(何だ?)

(アルフを忘れている。

順番的には噛み付かれ、

凍らされ、

砲撃で消滅が正しい)

(…本格的に切腹を視野に入れねばならんか)

説破詰まってもやはり恭也は恭也であった。

勿論目の前に降り立った二人から目を離してはいなかったが。

「…これ程の性能とはな。

しかし、そのベルト、カートリッジが六つと言う事は

六連装まで可能なのか?」

「ああ。

出来ないことは無いが、

製作者曰く、

三つ以上はアーマーが持たん、だそうだ」

「恐ろしいデバイスだな。

その上、高町の砲撃まで耐えたのか?」

「少々の間だけ防御魔法でな。

光で皆の視界が塞がれた所で神速を使っただけだ。

しかし受けてみて実感したが、

凄まじいな、あれは。

耐える為の数秒で弾丸三つ使ったぞ。

規格外な威力だな」

「高町もお前にだけは規格外等と言われたくないだろうな。

…不思議そうな顔をするな!

現状を見ろ!」

「ふむ…現状か。

ヴィータが羨ましそうにこっちを見ているな」

「何!?」

「べ、別に羨ましくなんかねー!

ちょっとカッコいいかなとか全然思ってない!!!」

「…仕事以外では相変わらず真っ正直だな」

「うるせー!

ぜってーボコボコにしてやる!!」

「何か策があるのか?」

シグナムの問いにヴィータは笑って答えた。

「それは…こいつだ!」

そうしてヴィータの後ろから出てきた、

玉弾球珠魂霊たまタマtama………。

シュワルベフリーゲンの魔力球が、

不規則な軌道を描いてシグナムの後ろに大量に並んでいる。

「すごい量だな…」

「お前らが話してる間に後ろ手に作ってたんだよ」

「しかし、どうやっても一度に数個撃つのが精々だろう。

数を撃ってもそれでは面制圧にならんし、

乱弾性も少ない。

俺にはそうそう当たらんぞ?」

「撃つのは俺じゃねー。

シグナムだ」

「騎士剣もハンマーもお前達の使い方なら撃てる量はあまり変わらないだろう?」

「普通に撃ったらな。

じゃあシュランゲフォルムならどうだ?」

凍りつく二人。

そしてシグナムは満面の笑みを浮かべ、

恭也の顔は引きつった。

「なるほど…いい考えだ」

「同意するのか!?」

「当然だ。

仲間の仇は取らせてもらう。

レヴァンティン!!」

「Schlangeform」

「くっ!」

「恭也、 お前がボコボコになるまで弾の補充は止めねーからな」

「く、紅の鉄鬼!?」

「字が違ぇー!」

「なぜ解る!!?」

相も変わらぬコントな八神家+αであった。





「あちゃ〜。

こりゃ決まってまったかなぁ」

「流石にねぇ」

「あの状況じゃね」

「ですねー」

いつの間にか観戦しついたリンディとレティは、

はやての予想に同意していた。

リインUもうんうん頷いている。

その横ではマリーが一心不乱にデータの分析をしている。

「二人共ノリにノってるわねぇ。

即席の合体技まで創って…」

「日頃からかわれ続けた恨みだろう。

後は代わりがあると言っても、

恭也が本来の得物を持っていないのも大きい。

二人にも意地があるからな。

負けられんさ」

そんな光景を見ても全くいつもの様子を崩さないシャマルとザフィーラ。

まるで何時もの事と言わんばかりだ。

実際喧嘩は何時もの事なのだが…。

「前から分かってたけど…」

「凄まじい戦闘技能だな」

珍しくクロノとユーノが一緒にいた。
これでもお互いの分析力や性格は知っているし、

認めてもいる。

冷静な観点で、

しかも静かに意見交換するのに最適な選択だった。

「…動くぞ!」





「ゆくぞ!!!」

蛇腹剣を振り上げるシグナム。

(不破、神速準備!)

(road cartridge.flash mode ready)

一瞬の視線の交錯。

「行くぞ!!」

「即席合体必殺奥義シュランゲフリーゲン!!」

「はあぁぁ!!………って、待て。

何だそれは?」

「いいだろ、別に!!

恭也ばっかズルいんだから!!」

(やはり羨ましかったのか…)

少しだけ遠い目をしたが、

その剣は止まらない。

ガガガガガガガガガガガ…。

一斉に打ち出される魔力弾。

そして目前まで迫ったそれを見つめる恭也。



━━神速━━
(flash mode start)



慣れ親しんだ神速の世界。

だが今日は違う。

神速中は一般人の全力疾走程度の速度しか出ない筈の体は、

まるで戦闘機の様な軽やかさで跳んでゆく。

シグナム達の弾幕を一歩で迂回、

二歩目で既に後ろに回りこんでいた。

(弾丸撃発。魔力、右刃集中)

(road cartridge.blade slash)

そして三歩目と同時に腰の一刀を抜き放つ。



━━奥義之壱、虎切



レヴァンティンの防御魔法の声が終わらぬ内に、

シグナムの背中に一撃。

防御魔法発動が間に合わず、

常軌を逸した速度の慣性と共に叩き込まれた攻撃に

堪らず吹き飛んでいくシグナム。

返す刀でヴィータに一閃。



ギイィィィィン!



高速化した思考の中で不破は恭也に語りかけた。

(防御魔法が間に合ったか)

(多分俺が消えた瞬間に

二人共同じく反応したんだろう)

(一撃分の刹那の時間差が明暗を分けたのか。

魔方陣から見てパンツァーヒンダネスだな)

(強度は?)

(カートリッジ無しでは突破は難しい)

(刀への供給は鞘からしか出来なかったな?)

(そうだ)

(二連撃発。魔力、左刃集中)

(road two cartridge.blade slash)

同時に恭也は残った刀を抜き放った。



━━奥義之睦、薙旋



パリィィィィィン…



初撃が防御を砕き、



ザザザン!!



残り三撃がヴィータを捉え、

砕ける騎士鎧と共に吹き飛んでゆく。

静寂が辺りを包んだ。

「こ、これで六課三隊合同演習を終了します」

動揺を残したはやての声が演習場に響いたのは、

随分時間が経過してからだった。





「え〜、それでは反省会を始めたいと思います」

隊長であるはやての音頭の元、

演習の反省会が始まった。

「因みにランスター二等陸士とナカジマ二等陸士は、

腹部の激痛の為、反省会には参加できない」

「…何か言いたい事でも?」

「別に何もないが?」

相変わらず妙に仲の悪いクロノと恭也。

「はい、そこ。

ちょう、静かにして」

いつもの事なので、あっさり止めに入るはやて。

「じゃ、先ず高町教導官から……

ってなのはちゃん?」

答えの返らないなのはの方に視線が集まる。

「うぅ…八対一で負けちゃつたよぅ」

「エリオとキャロに会わせる顔が…」

「背中に一撃を喰らうとは…」

「必殺技が効かなかった…」

隊長、副隊長達が影を背負いまくっていた。

フォロー大会が始まった。





結果、もどかしい仲は微妙に進展し、

家族愛はとても深まった。

因みに恭也は不参加である。

そこは厳しい恭也であった。

「えっと、講評としてはティアナ達は平常心を保てなかった事、

私達はお兄ちゃんを過小評価した事だね」

「そうだな。

ランスターとナカジマは始めから頭に血が登っていたし、

モンディアルとルシエは完全に判断ミス。

なのはは動揺した事、

フェイト嬢は焦りすぎた。

シグナムとヴィータは射撃ならばもっと距離を取るべきだったな。

まぁ後半の四人は神速の性能を多少知っていたから、

油断もあっただろう」

「うん。

スターライトブレイカーを耐えてから

神速なんて出来ると思わなかったし」

当たる前に避けられたなら気付けたし、

防御の時間もあったのに、

と悔しがるなのは。

「あれは鎧の防御魔法のおかげだ。

生身では無理だ。 

体が保たん」

「しかしそれでは、最後の神速の説明がつかない。

あれはあんなに速くは動けなかった筈だ」

「そうだぜ。

いつもの神速は、あの距離なら反応出来てた筈だろ!」

「それはフラッシュモードだな」

「「「「「フラッシュモード?」」」」」

全員ハモった。

「開発者曰く、

このデバイスの目的は『神速の効率的な運用』らしい」

恭也が辺りを見回せば皆真剣そのもので聞いている。

それだけの衝撃があったのだ、今回の結果は。

「本来神速は長時間の使用も多用も出来ない。

体の負担の大きな技だからな。

鍛え抜かれた御神の剣士しか扱えない」

戦闘を生業とする一族の厳しい訓練をくぐり抜け、

かつ体が出来ている者だけが使える奥義、神速。

「開発者、俺は親父さんと呼んでいるが、

何度か不破のメンテナンスを依頼する内にその事を知られたらしくてな。」

アインバックルを渡された時の事を思い出した。





「いいか?

こいつの機能は至ってシンプルだ。

即ち身体強化、これに尽きる」

真剣そのものの表情で恭也と不破に機能を説明し始める。

「間違えんな?

身体強化であって運動性向上じゃねぇ」

「どう違うんです?」

「言ってみりゃあ強度上昇って事だ。

神速って奴はどんなに体を鍛え上げた所で反動をゼロにできねぇ。

当然だな。

人間が体に負担をかけない為にわざわざ使ってねぇ能力を

意識的に使ってるんだ。

スポーツ選手に持病持ちが多いのも

限界を越えて体を使うのが原因だ。

この辺りは知ってるな?」

頷く恭也。

「こいつの意義は能力の向上の為じゃねぇ。

攻撃から身を守る為の防具でもねぇ。

限界を意識的に超えるお前さんの肉体を支えるもんだ」

「…具体的には?」

「カートリッジが切れない内は神速の連続使用が可能だ。

六発六連装だから、

他の機能を使わなけりゃ36分、

延々と神速が使えるわけだ。

無論、体への反動は無しだ」

一時絶句する恭也。

だがそこは恭也、並の精神ではない。

今の説明から自分の疑問点を引っ張ってくる。

「他の機能とは?」

「バリアブレイクの強化だ。

どんなに速く動けようが、攻撃前、攻撃中、攻撃後の隙は消せねぇ。

攻撃前後はこっちではどうにもならんが、

バリアブレイクの速度を上げる事で、

攻撃中に足を止める時間を減らした。

結果的には威力も上がるから、

ある程度上のランクの連中の相手も可能だろうよ」

「とんでもないですね…」

「もう一つある。

と言うかこっちがメインなんだが…」

「もう何を言われても驚きませんよ」

「ふん。

なら聞いて驚きな。

このデバイスに出来るのは身体強化とバリアブレイク、

簡単な防御魔法と足場作りだけだ。

容量が余ったから純粋な身体能力向上の術式も突っ込んだ。

十秒に一つカートリッジを喰うから多用は無理だし、

知覚強化までは入らなかったから大分じゃじゃ馬になるがな」

「…さっき能力の向上は目的では無いと言っていましたが?」

「目的じゃないが、

入れないと言った覚えはねぇな」

「はぁ…本当にとんでもないですね」

「欠点もあるがな。

まず使用中のカートリッジの交換は出来ねぇ。

魔力が逆流するからな。

長期戦と遠距離戦は不可能だ。

さっき言ったとおり最長三十六分、

遠距離兵装はねぇ。

バリアブレイクやフラッシュモードで使っちまえば、

更に短くなる。

後、カートリッジは同時使用三つまでだ。

それ以上はアーマーがもたねぇ。

最後に小太刀への魔力供給は鞘からしかできねぇ

これも構造上どうしようもねぇからな」

「小太刀がついているんですか?」

「元からお前さんの装備として作ったからな。

半分趣味みたいなもんだ。

で、どうする?

持ってくか?」

「不破、いいか?」

「主の求めだ。

否やは無い」

「…では済みませんが頂いて行きます。

有難うございます」

「よし、不破を寄越しな。

嬢ちゃんの乗せ換えと調整すっから」





「と、言う訳だ」

(あの時ちゃんと作りを確かめていれば、

あの痴態を晒さずに済んだものを…)

(今更だろう。

もう披露も済んでいるのだから)

「う〜ん。

依頼と大分違うけどこれはこれでええなぁ」

「そうね。

魔法を防御特化に変えれば充分使えるわ」

「その事なのですが、

デバイス翁より伝言「待て。色々と待て」なんだ恭也?」

恭也は先程の発言者に視線を向ける。

即ち、はやて、レティ、不破だ。

「はやて嬢、依頼とは何の事だ?」

「そのライダ○ベルトや」

「レティ提督、使えるとは?」

「最近、AMF搭載の敵が増えてきて、

武装隊の消耗が激しいのよ。

ドローンとガジェットの解析で

忙しいマリー達に回すのも気が引けたから、

どうしようかと思ってたら、

はやてがデバ爺さんを紹介してくれてね。

防御タイプのデバイス試作を頼んだのよ」

「出来て来たのは防御デバイスじゃ無かったけどな〜」

「な、なんだってー!!?」

「その事で親父さんから伝言があります。

『コンセプトと違う物が目の前にあるだろうが、

中身の魔法を防御系に取り替えれば充分使える。

強化服タイプは予算の都合上無理だった。

リクエスト通り、

紅いマフラーは着けたから勘弁しろ』

以上です」

「リク…!

ってデザインははやて嬢か!!?」

「そうや。

会心の出来や!

強化服タイプが駄目になって

急いでデザインしたんやけどな。

でもマフラーは着けてくれたんやねぇ。

激しく合ってないけど」

「元凶はお前かぁぁぁ!!!」

「何怒っとるん?」

「あんな痴態を晒されて、

俺は…俺はぁぁぁぁ!!」

「ああ大丈夫やて。

私がお婿にもらうて」

「何故そこに話が飛ぶ!?」

「あれ?

さっき不破が私の事を貰ってくれるらしいって

念話で言ってたけど…」

「「不破!?」」

「究極の朴念仁ですから

可能性は少しでも上げておかなければなりません」

「フェイトちゃん、勝負や!」

「負けないよ、はやて!」

演習場に駆けていく二人。

(ここは逃げの一手!)

神速に入ろうとする恭也。

ブゥン…

「な、バインド!?」

「「ふふふふふふふ…」

「リンディ元提督、シャマル!?」

「「どっちを貰ってくれるんですか?」」

目が勿論家の娘よねぇ、と主張している。

シャマル、君娘と違う。

(く、援軍は…!)

「フェイトちゃんかはやてちゃんがお姉ちゃんかぁ…」

その言葉に更にフェイトとはやての出力が上がる。

そっちもありらしい。

「フェ、フェイトが嫁に…!

ああでもなのはが妹に!

選べる筈が無い!

くそ、何時だって世の中は

こんな筈じゃなかった事ばっかりだ!!」

クロノが苦悩していた。

その後ろには一目散に逃げてゆく犬とフェレット。

(ほ、他には…!)

「皆、手伝ってーな!」

「了解です、主!」

「しゃーねーな」

「お爺さんがお父さんになるですねー」

「くっ…」

「「フェイトさん、手伝います!!」」

「二人とも!?」

「フェイトさんは…その…」

「わ、私達の…大事な人ですから」

フェイトの思考、大事な人=母親に補正。

「…有難う、二人とも。

一緒に恭也さんを…お父さんを迎えに行きましょう」

エリオとキャロの首がぐりんと恭也の方向へ。

(恭也さん…ちょっと変だけどとても強くて大きな人)

(恭也さん…ちょっと変だけど撫でてくれる優しい人)

頷きあう二人。

「ストラーダ、行くよ!!」

「竜魂召還!!」

演習所へ突撃していく。

更にリンディにけしかけられたクロノが続く。

その光景を見ながら、

答えを求めて締め付けがきつくなるバインドにより、

恭也は意識を手放した。

(今日は天中殺か何か?)





「これは収拾つかないわねぇ」

「あ、レティ提督。

あのデバイス、恭也さんので登録しちゃっていいですか?」

ここだけ別世界の様な平穏の中で、

マリーとレティは盛大な乱痴気騒ぎを見ていた。

「一応サブウエポン扱いにしとかないと、

一生背後に恐怖して暮らす事になるわよ?」

「あ、あはははは…。

サブで登録しときまーす」

「はぁ…。

こんな事してるから人外魔境とか言われるのよね」





「ジ・エーフ・キース

神霊の血と盟約と祭壇を背に我精霊に命ず 雷よ…」

「「来たれ氷精 大気に満ちよ

白夜の国の 凍土と氷河を…」」

「体は剣で…」

「ギィィィガ・ドリィィィル…」

「滅びのバースト…」

「震天裂空斬光旋風滅砕神罰…」

「エターナル・フォース…」





その日新たなるラ○ダーが生まれた。

凶兆の黒翼、紅血の大鴉。

悪に対する最強の凶事。

その名は仮面ライ○ーKYO





尚、管理局内では、

「光源氏計画の凶行に及んだ」

「女運最凶」

のKYOで見解は一致している。





色々と終わる



あとがき

この作品の構成要素

大師父作「恭也、未来へ投資してみる」

ラ○ダーシリーズ

ここの作品でテンションが上がり過ぎて熱暴走した作者の脳味噌

=これ

「恭也、未来へ投資してみる」作中の大師父のネタ振りに反応しましたw

十日位かけて書き上げたんですが…

い、一応読み物になっている筈…です。

頑張って書いたので読んで頂ければ幸いですm(_ _)m